身体医学

 医学は病気を治療し、我々の命を救ってくれます。身体医学は目に見える身体そのものを扱い、身体の病気を治療します。しかし、そこではその人のパーソナリティや今までどのように生きてきたのかといった生活史などはさして問題にされず、個の生物体としての状態やその機能が問題とされ、症状を除去することが治療プロセスであります。

精神医学

 一方、心とは目に見えないものであり、人間の心の働きは人間の内部体験であり、その体験の対処法は人によってそれぞれ違います。心の苦しみというのは、外からは見ることができず、人は心の痛みや生きづらさに悩むことが往々にしてあります。

 医学の範疇である精神医学においては、心と身体の両面に目を向けますが、現在では、心の苦痛が症状になると、その症状の除去や軽減を目指す生物的精神医学が主流をなしています。実際の医療では患者の訴えを聞き、行動を観察して症状に基づいた診断をし、治療としては薬物療法が主になっています。

 身体医学や精神医学においても患者との信頼関係は必要とされますが、患者との関係そのものが治療の中心ではありません。

精神分析

 人はみな心の奥に、自分でもよく知らない世界を抱えて生きています。そして、悩みや苦しみなどの負の感情に苦しみます。そうしたときには、それから避けようとしますが、逃げることができないことも多く、また逃げることが必ずしも不幸から脱することにつながるとは限りません。

 精神分析の創始者であるフロイトは、人の心には自分が意識できる部分と、自分でもよくわからない無意識の部分があることを見出し、そこに潜む未解決の葛藤が、心と身体のさまざまな症状や問題を起こすことを探求し解明しました。そこで得られた臨床技法と人にかかわる理論が精神分析で、その治療方法が精神分析療法です。その後に精神分析の考え方や関わり方を基本として臨床実践おいて応用されているのが精神分析的心理療法です。

 これらの療法のプロセスにおいては、苦痛をもつ人と、治療者(セラピスト)との相互交流での心のふれあいが展開します。このような過程を経る中で、自分について考え、内なる世界を見つめ、自己と深く出会って気づいていなかった自分自身の心について知り、理解していきます。そうした作業をすることによって、心の苦痛に持ちこたえる力を高める道が開けていき、自己が成長していくのを助けることができるのです。精神分析の眼目はそこにあると考えられます。

精神科臨床の経験から

 私は、精神科臨床を長年経験してきました。そこで私が学び得たものは、精神医学と精神分析が互いに相反するものではなく、その方法や目指すものに相違はあるものの両者は、互いに補い合う関係にあるということです。